ボルハ・バレーロとラジャ・ナインゴラン
海外サッカーを少しかじった者であれば誰しも「バンディエラ」という言葉は目にしたことがあるでしょう。
チームを愛し、チームに長く在籍し、貢献してきた選手をそう呼びます。
イタリアではバンディエラの文化が自然と根付いていて、僕はそんな粋な選手たちや文化が好きです。
なぜイタリアかと言うと、説明するだけ野暮だとは思いますが、ローマのフランチェスコ・トッティの存在が人々の考え方に影響を与えているからでしょう。
ローマでデビューし、他クラブを知らぬままローマでキャリアを終えることの美しさはライバルクラブであってもリスペクトするところです。
実際ローマ最大のライバルクラブであるラツィオのサポーターですらトッティの最後には拍手を送っているのですから。
さて、バンディエラとは何も自チームでデビューした選手だけがそうなるわけではありません。
ユーヴェのブッフォンが代表的な例でしょう。
途中加入でもチームを愛し、長く在籍し、貢献してきた選手というのはいるものです。
こうした選手がサポーターから受ける愛は当然他の選手とは比べものにならないほど偉大なものになります。
言い換えると、チームにとってバンディエラはチームのアイコンになるとともに良くも悪くもアンタッチャブルな存在となるわけです。
ヴィオラもマヌエル・パスクアルという偉大なカピターノを売却に踏み切ってサポーターから大きな批判を浴びました。
それだけではありません。
不調だったパスクアルとは違ってシーズンフル稼働で活躍し、さらにはチームへの最大の愛を表明していたボルハ・バレーロをインテルに格安で売ったのです。
バレロは当時のヴィオラのまさにアイコンであり、最も愛された選手であったため、クラブには批判が殺到しました。
僕もパスクアルやバレロの売却はショックで当時はクラブをめちゃくちゃ批判しました。
それと似たようなことが今ローマで起きそうなのです。
そうです。
ラジャ・ナインゴランです。
チームを愛し、チームに愛され、他クラブからのオファーをはねのけ、貢献し続けたバンディエラの1人。
ナインゴランは今やローマのアイコンです。
今僕はかつての自分を俯瞰して見られる状況にあり、ナインゴランを巡る噂を通してバレロを巡る昨季を見ている気分になるのです。
ロマニスタは勿論、ヴィオラを応援する仲間からの批判も覚悟で書かせていただきます。
バレロの売却のタイミングは間違っていなかったし、ナインゴラン売却のタイミングは今がベストです。
勿論これは“売却するのなら”という条件つきですし、ローマとヴィオラで価値観も違いますので全てが同じだとは言えません。
その上で少し説明させていただきます。
当時のフィオレンティーナは改革の時を迎えており、監督に選手に一新している真っ最中でした。
もしこのタイミングでバレロを売却していなければ、おそらく今季もバレロはフル稼働していたでしょうし、これから年齢的にも衰えてくるバレロのみに固執したサッカーになってきていたと思います。
かつてモンテッラやソウザがそうなったように、戦術バレロになるわけです。
ヴィオラ規模のクラブには高い年俸も無視できません。
これを避けるためには監督も選手も一新されたあのタイミングしかなかったのです。
つまり売却はチーム改革という観点において間違いではなかった。
ヴィオラが間違ったのはバレロへのリスペクトに欠けた対応と安すぎる移籍金、そして放出先(国内ライバルチーム)です。
当時は僕も本当に腹が立ったのですが、今振り返ると売却自体は仕方なかったのかもしれないと思います。
勿論売却せずにチームにいてもらってヴィオラで引退が一番ですが。
さて、話はローマに戻ります。
ローマは今季CLベスト4という大躍進を成し遂げました。
来季これと同じことを成し遂げるのは不可能ではありませんが、正直難しいでしょう。
さらに敏腕と名高いモンチがSDを務めていることもあり、資金面で潤っていてネームバリューもある今季に後釜を獲得しないと手遅れになります。
チームの経営という観点からもこのタイミングでの売却がベストなのです。
別に売却せずに後釜だけ獲得すればいいじゃない!という意見もあります。
勿論そうなのですが、そうすると結局ナインゴランばかり出場して新加入選手が出場機会をほとんど得ることなく高い移籍金を払っただけになる可能性も大いにあると思いませんか?
今はそれでもいいかもしれませんが、ナインゴランも30歳とベテランの域に入ってきています。
30歳を超えたら1年経つと市場価値は一気に落ちます。
それだけパフォーマンスも落ちてくることが多いからです。
・CLベスト4の強み
・売却した時に入る資金
・30歳という年齢
・敏腕と名高いモンチの存在
という4点を考えると、僕にはナインゴランの売却に今以上のタイミングが思い浮かばないのです。
繰り返しになりますが、これはあくまで“売却するなら”の仮定つきです。
そして僕自身はバンディエラの存在が大好きです。
マナーゲームになってきているサッカー市場で金じゃ買えない粋な生き方。
イタリアには不可欠だと思います。
フランチェスコ・トッティの在籍したローマと1中小クラブであるヴィオラではバンディエラの持つ意味合いがまるで違うと言う人もいるでしょう。
それは理解できます。
しかし、冷静に見た時にこんな考え方もあるということです。
最後にこれだけは言っておきます。
僕はフィオレンティーナに在籍した選手の中でボルハ・バレーロが一番好きな選手でした。
ご意見・ご感想ございましたらコメントいただけると嬉しいです。
拙い文章読んでくださってありがとうございました。