2014年にハンブルガーSVからやってきた彼のことを僕はよく知らなかった。
その時にやってきた選手はチェルシーからレンタルで獲得したドイツ人の期待の若手マルコ・マリンや、かつてマンチェスターCユースの最高傑作とまで言われたDFマイカ・リチャーズで、この二人に比べればミラン・バデリの名はブンデスリーガをほとんど観ない僕にとっては馴染みのないものだった。
当時のフィオレンティーナはモンテッラ率いるポゼッションが武器のチームで、特に中盤のクオリティは目に見えて高いチームだった。
アクイラーニやバレロ、ピサーロといった選手で展開されるゲームメイクは見事で、当時セリエAで最も美しいサッカーとまで称された。
そんな中でバデリの役割はキャリアも終盤に差し掛かってスタミナに不安のあるピサーロのバックアップであった。
初めて観た彼の印象は器用貧乏。平均的に何でもこなせるが、突出した武器がない。
一方でバランサーとしての感性は非常に良く、ピサーロと同等とまではいかないまでも、必要な役割はこなしていた。
対国外戦やカップ戦にめっぽう強かったモンテッラのヴィオラにはELやコッパなどのリーグ以外での試合も多かった。
そういった機会で出場機会を得、出場するとピサーロと同様の役割を求められるため、どんどんバデリのレジスタとしての才能が開花していったのだ。
結果として、次のシーズンが始まる頃には絶対的な選手としてピッチに立つこととなる。
時々怖いミスはあれど、長短の正確なパスとバランサーとしての感度の良さはチーム随一で、国内外問わず移籍の噂は出ていた。
バデリの代理人は、フィオレンティーナ程度のクラブでは彼の居場所として相応しくないと常々主張し、口を開くたびに移籍だ移籍だと話した。
一方、バデリ本人は「このクラブで満足だ」と一言。
僕らは彼の言葉を信じた。
そうこうしている間にバデリを上手く起用したモンテッラが解任され、新たにパウロ・ソウザがチームの監督に就任した。
新監督の下でもバデリは絶対的な選手で、ヴェシーノと組んだ中盤底を僕は生涯忘れることはないと思う。
技術もセンスも磨きがかかり、それまで横パスを駆使した左右のゲームメイクから、カリニッチやイリチッチ、バレロといった選手に当てる縦への効果的なパスも増えていった。
もともと視野の広い選手であったこともあり、特別目立ちはしないけれども「ここに欲しい」というところにパスを自然に出せる選手になっていた。
そして17-18シーズン開幕時。
それまでのヴィオラの主力選手たちのほとんどがクラブを離れていった。
タタルサヌ、ゴンサロ、バレロ、ヴェシーノ、ベルナルデスキ、イリチッチ等が居なくなり、僕らを魅了したポゼッションサッカーを展開する中盤のスタメン選手の中で、チームに残ったのは皮肉にも移籍の噂が絶えなかったバデリのみであった。
今季で契約満了し、延長はすることなくこのまま退団するだろうという話はずっと前から出ていた。
29歳という彼の年齢的にも、ステップアップにはこれがラストチャンスだった。
結果としてこの年が彼のフィレンツェで過ごす最後の年になる。
その最後の年に決して幸せとは言えない形でキャプテンマークを巻くことになった。
新チームを引っ張っていたアストーリの死後、キャプテンを引き継いだのはバデリだった。
アストーリに捧げた弔辞は涙なしに読むことが出来ないものであった。
この出来事が、今までの流れを一転させて彼の契約延長の噂を立てた。
残念ながら、契約延長は叶わなかった。
きっと、最後の最後まで悩んだのだと思う。
オフィシャルサイトのバデリからのメッセージを読めば痛いほど伝わってくる。
これ以上ない感謝の言葉も綴られている。
フィオレンティーナへの最大級の感謝の言葉である。
僕らヴィオラのサポーターはきっと同じ気持ちだろうから、そのつもりで書かせてもらう。
僕らも君に心から感謝しています。
どこへ行っても必ず応援します。
これからのミラン・バデリのキャリアに最大級の成功がありますように。
4年間どうもありがとう。
Forza Milan Badelj