アルノ川の畔から

セリエA🇮🇹の古豪フィオレンティーナを応援するブログです。ヴィオラ中心に色々書きます。

【マッチレビュー】サンフレッチェ広島vs鹿島アントラーズ

 インターネットの普及により,遠い国のフットボールも容易に観られるようになった今,よりいっそう国内リーグのプロモーションというのは重要になってくる。

 Jリーグはアジアの国内リーグにおいて非常にハイレベルで競争力のあるスペクタクルなリーグであると言えるが,一方で欧州のリーグと比べると,やはり戦術や選手個人の能力,試合展開や速度等において数段劣る。勿論,JリーグにはJリーグの面白さがある。しかし,僕が言いたいのは,単純にハイレベルなサッカーが見たければ,日本のプロでなくもっと優れたプロフェッショナルに流れることのできる環境が今の日本には整っているということだ。

 だからこそ,JリーグはJリーグにしかない何かを打ち出さなければならない。「身近である」ということ以外の,サッカーの本質的な魅力を。

 

サンフレッチェ広島vs鹿島アントラーズ

 

 どちらも言わずと知れたJリーグの名門クラブであり,優勝候補として常に名の挙がる2クラブである。

 前者は昨季6位ながらも,負け試合はシーズン通して僅か一桁。解説によると,昨季から変わらぬ3-4-2-1をベースにしたショートカウンター主体のチームらしい。紫のユニフォームと相まって,パウロ・ソウザ期のフィオレンティーナを思い起こさせる。

 後者は昨季3位の実力者であり,一昨季も同じく3位,その前は2位と,シーズン毎に順位変動の激しいJリーグにありながら,常に安定して好成績を残し続けている。試合を観る限り,短いパスで中央を縦に素早く崩していくスタイルを得意としているようだ。

 

 スタジアムは広島ホームのエディオン・スタジアム。両脇を歩く子どもたちと手を繋ぎながら,両チームの選手が入場する。簡易的なゲスト紹介のアナウンスの後,ホーム広島のユニフォームを纏った女優兼フィギュアスケーター本田望結ちゃんが短い助走からピッチにボールを蹴り入れる。転がるボールは力なく,しかし真っすぐとピッチに向かう。それを見届けて,彼女はスタジアム四方に美しい礼をする。この日の広島には本田望結がいる。観ているものにそう感じさせるのには十分すぎる10秒間であった。

 

 試合開始のホイッスルが鳴る。

 

 先にチャンスを作ったのはアウェイ鹿島。ハイプレスで広島にペースを作られる前に縦への速攻を仕掛ける。

 前半2分,CBから中盤にボールを預けると,ペースを落とさずにそのまま縦にボールを繋いでいく。さらに後ろからボールを受けた選手を追い越す形で中盤も攻撃参加。ペナルティエリア手前,右でスルーパスを受けたファン・アラーノがフリーで低く鋭いシュートをニアサイドに放つが,これはポストに阻まれる。跳ね返ったボールに詰めた和泉も枠に決められず,チャンスを活かせず。当然である。この日のエディオン・スタジアムには,本田望結ちゃんがいる。

 

 中央でナローに崩そうとする鹿島に対し,ピッチを広く使ってサイドからCFのレアンドロペレイラを目指す広島は,鹿島のハイプレスを何とか躱しながら少しずつ自分たちのペースを築いていく。

 

 試合が動いたのは前半20分,鹿島のDFからボランチにボールを入れたところをレアンドロペレイラが狙ってトラップの瞬間にボール奪取。そのまま中央でフリーのヴィエイラに入れて冷静に鹿島ゴールに流し込む。鹿島の注意が甘くなったところを逃さず突いてみせた。

 

 さらに今度は先制弾アシストのペレイラが追加点を沈める。前半24分,DFから受けたロングボールをシャドーの森島がピタリと収め,そのまま右に展開。ボールを受けたヴィエイラが素直に中に入れ,後方から走りこんだ川辺がボールとDF&GKの間に入ると,それをワンタッチでファーに流す。そのままフリーのペレイラが簡単に決めてみせた。本田望結ちゃんがピッチに入れたボールを,流れるような連携で繋いで崩し切った美しいゴールであった。

 

 その後,なんやかんやでもう一点取った広島が3-0で完勝。転じて,本田望結ちゃんの大勝利である。

 

 Jリーグは試合展開が遅いと言われるが,僕はこの試合において欧州のクラブ同士の一戦と違わぬスピード感や迫力を見た。球際の競り合いとコンセプトある戦い方,ボールを扱う技術にミドルレンジのシュートのパワー。一瞬の隙を突く張り詰めた緊張感。スタジアムに沸き起こる歓声。ゲストの本田望結ちゃん。

 2得点目に繋がった森島のトラップは欧州でもなかなか見られるレベルではなかったし,敗れた鹿島もスコアほど悪いプレーをしているわけでなかった。むしろ想像していたよりも完成度は高かった。それでもクリーンシートの3得点で勝ってしまうほど,広島は強く,本田望結ちゃんは可愛かった。

 

スペインでは,世界最高のリーグの肩書き通りの華々しいサッカーが展開され,

イングランドでは,世界各国のスタープレイヤー達が凌ぎを削る。

ドイツでは,質実剛健なサッカーで新興勢力と歴史あるクラブが火花を散らし,

イタリアでは,豊富な戦術でかつての栄華を取り戻してきている。

 

日本には,世界最高のプレイヤーはいない。

日本には,勝ち点を得ることに特化した戦術性はない。

日本には,派手で華々しいプレーはない。

しかし,

日本には,本田望結ちゃんがいる。

それだけで十分なのだ。

それこそが本質的な魅力なのだ。

 

Jリーグの未来は、きっと明るい。